固有感覚の臨床的意義と活用のヒント

リハビリしていると、「固有感覚」という言葉を耳にする機会が多くありませんか? ですが、「固有感覚とは何か?」「それがうまく働くとどうなるのか?」について、実感を伴って説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。

札幌の脳卒中専門リハビリ🧠 脳とカラダの研究所 🏃 代表 藤橋亮介 です😄

今回は、固有感覚についての基本的な知識から、神経経路、介入の実際、バリアコンセプトとの関連性、そして固有感覚が働いたときの身体の感覚まで、臨床的に使える内容を掘り下げてご紹介します。

固有感覚とは?

固有感覚(Proprioception)とは、「自分の体の各部位が、今どこにあって、どのように動いているか」を無意識に把握する感覚です。筋紡錘(筋肉の伸長)や腱器官(張力)などの受容器からの入力を通じて、関節位置や動き、筋緊張を中枢神経が捉えることで成り立っています。

固有感覚が「発火」すると何が起こる?

固有感覚がうまく働き始めると、関節や筋肉の状態を脳が正確に把握できるようになり、運動が明確で滑らかになります。結果として、無駄な筋緊張が減少し、姿勢や動作の安定感が増し、身体の使い方が自然になっていきます。

関与する神経経路

主に関与するのは以下の経路です:

  • 後索・内側毛帯路(意識できる固有感覚:関節角度、振動覚など)
  • 脊髄小脳路(無意識的な運動調整:運動のフィードバック)
  • 体性求心路 → 延髄 → 視床 → 大脳皮質
  • 小脳皮質 → 小脳核 → 上小脳脚 → 赤核・視床 → 大脳皮質への投射

これらの経路が正しく働くことで、意識下でも無意識下でも運動の調整が可能になります。

固有感覚を働かせるためには?

運動中に関節に適度な張力や圧縮が加わることで、固有受容器が刺激され、情報が中枢に伝わります。床反力や荷重、関節の牽引・圧縮などをうまく使いながら、関節・筋・腱への物理的入力を与えることが重要です。

意識化の必要性は?

固有感覚は本来無意識で働く感覚ですが、**「どの関節がどう動いているか」**という意識づけを行うことで、後索系の入力が活性化されやすくなります。特に麻痺などで入力が乏しい場合は、意識的な運動やフィードバックを通じて再学習を促すことが有効です。

バリアコンセプトとの関係性

バリアコンセプトでは、「動きにくさ」や「反応の閾値が高い領域=バリア」に着目します。このバリアの手前での介入とは、つまり“まだ動きが起こる直前”の微細な感覚変化を利用すること。これはまさに固有感覚を高めるための重要な介入ポイントです。小さな動きにこそ、最も鋭敏な固有感覚が存在します。

固有感覚が失われると運動できない?

はい、特に関節位置感覚や筋緊張の調整が困難になり、運動の精度が著しく低下します。中には、運動そのものは可能でも、空間的な運動制御ができないため、協調性に欠け、非効率な動きになるケースもあります。

小脳障害と固有感覚障害の違い

小脳出血や梗塞により見られる運動失調は、小脳性の運動調整障害です。これは厳密には「固有感覚障害」ではありませんが、**脊髄小脳路など無意識の感覚経路が遮断されるため、結果として“固有感覚がうまく使えない状態”**に近いものが生じます。

一次体性感覚野 vs 小脳系:意識できるかの違い

後索路を介して一次体性感覚野に到達する情報(関節角、振動覚)は、意識的に感じ取ることができます。一方、小脳系への入力は主に運動の無意識的な調整に使われ、意識されることは基本的にありません。これが両者の最も大きな違いです。

固有感覚が働くと体が軽く感じる理由

固有感覚がうまく機能すると、運動の「無駄」がなくなり、力の入り過ぎも緊張も減るため、体がスムーズに動きやすくなります。これは、身体の姿勢制御や重心移動が自然に行われるため、無意識に感じていた“重さ”や“負担”が減ることに起因します。結果として、体が軽くなったような感覚が得られるのです。

おわりに

固有感覚は、非常に重要な役割を果たしています。バリア手前での介入、荷重や接触などの戦略、さらには脳のどの経路を通じているかという理解を持つことで、より質の高い臨床が提供できると思われます。


このような感覚系への理解が、リハビリや身体アプローチの精度を一段と高めてくれます。普段の臨床の中で、「今、何の感覚を介して、どこに変化を起こしているのか?」を問いながら介入していくことが大切です。

筆者プロフィール

代表:藤橋亮介

理学療法士 脳とカラダの研究所 代表

藤橋 亮介(ふじはし りょうすけ)

〜経歴〜
2011年 理学療法士 国家資格取得 
札幌市 脳神経外科病院に勤務

2014年 大阪府 認知神経リハビリテーションセンターに勤務

2015年 奈良県 ニューロリハビリテーションセンター
健康科学研究科(大学院)に入学
2017年 修士 取得

2019年 札幌市に戻る
児童発達支援・放課後デイサービス 事業所に勤務

2020年 独立し、「脳とカラダの研究所」 を開業

 

 

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