「杖でたくさん歩けば ⇨ いつか杖を手放せる」はなぜ幻想なのか

— 脳卒中後リハビリを知る専門家が解き明かす“杖依存”のメカニズム —

杖でたくさん歩けば “そのうち杖なしで歩ける”―― それ、じつは思い込みです

脳卒中のあと、
「いっぱい歩けば脚は強くなるはず!」
「距離をのばせば、そのうち杖を手放せる!」
── そう信じて、毎日 5,000 歩も 10,000 歩も“杖ウォーキング”を続けていませんか?

残念ながら 「量をこなすだけ」では、杖を卒業できない理由 がいくつもあります。

札幌の脳卒中専門リハビリ🧠 脳とカラダの研究所 🏃 代表 藤橋亮介 です😄

今回は、あるある話で当店へのご来店のお客様でも良くあるお話をかなり専門的にですがしっかり調べ直したので、せっかくなら・・・とブログにしたいと思います。

かなり専門的なので、ご興味があれば信頼のあるセラピストに聞いてみていただけるといいかもですね。


一般の方向けに〜

1. たくさん歩く ≠ 杖なし歩きがうまくなる

  • 人の脳は “よく使った動き” を覚える仕組み です。
  • 杖をついて歩くほど、脳は “杖ありの歩き方” をどんどん記憶。
  • 同じ動きをくり返すほど、そのクセが体に染みつきます。

つまり
杖をついた歩き方を毎日くり返すと、
“杖がないと歩けない体” を自分で作ってしまう のです。


2. 杖は“安心”をくれるけれど、筋肉とバランス力はサボりがち

  • 杖があると体を支える 土台(足場)が大きくなる → グラッとしにくい。
  • その安心感のぶん、脚の筋肉やバランスを保つ神経 が働きにくくなる。
  • 結果、杖なしで立った瞬間にグラグラ… となり、また杖に戻る悪循環。

3. 足にかかる重さが減ると、脚は強くならない

  • 杖を使うと、片マヒ側の脚にかかる体重が減ります。
  • 体重が乗らない = 筋肉への“刺激”が足りない → 筋力アップにもつながりにくい。

4. “できた!”の成功体験が、じつは杖付きに限定

  • 人は「やればできた!」という体験で自信がアップします。
  • でも杖を手放さない限り、その成功は “杖があってこそ”
  • 杖なしの成功体験 が積めず、「やっぱり杖がないとムリ」と感じてしまいます。

専門的に〜


1. “歩行量”と“歩行質”はまったく別物

  • 量(距離・歩数)=可塑性 を高める燃料になるのは事実。
  • しかし 質(荷重パターン・骨盤運動・ブレーキ筋群タイミング) が誤ったまま距離だけ伸ばすと、脳はその誤ったパターンを強固に固定 する。
    • 神経可塑性は「繰り返したもの」を強化する仕組みであり、正しい/誤っているの判定はしない。
    • よって “杖込みの歩容”が脳内で最適化 → 杖なし歩行ネットワークは発火しないまま終わる。

2. 支持基底の拡大=バランス課題を奪う

  • 杖は 支持基底を横方向に平均 +20 cm 拡大 するとされる。
  • 本来、立脚期には 側方重心移動に対するバランス反応(股関節戦略→足関節戦略)が必要だが、
    • 杖があると “足関節戦略”を発動せずに安定 できるため、反応閾値が上昇。(つまり反応しづらい)
    • 平衡反応の脱学習 が生じ、杖なし立脚期での恐怖と不安定感が増幅。

3. 片麻痺側への床反力(GRF)が減ると“筋骨格システム”がサボる

  • 四点杖歩行では 麻痺側下肢のピーク垂直GRFが約15–30 %低下
  • これにより 股関節伸展・膝伸展する活動 が減少 →
    • 大殿筋・大腿四頭筋の 求心性収縮刺激が不足
    • 長期的には 抗重力筋の萎縮・速筋線維置換 が進み、杖を外すと支持できない。

4. 感覚フィードバックの“曖昧さ”が増す

  • 杖先からの 触覚・機械受容入力 が増え、視覚依存も高まる。
  • 一方、足底圧・筋紡錘入力 は減るため、杖なし環境に切り替えた瞬間
    • 「どこに体重が乗っているか分からない」
    • 「床反力が感じ取れない」
      という 固有感覚が欠如状態 に。
  • 感覚再統合 を伴わない限り、歩行制御は成立しない。

5. “安心感”が行動変容を阻む心理学的側面

  • 自己効力感は新しい課題成功体験で高まる。
  • 杖を持ったままでは「本質的な新規チャレンジ」が起きず、
    • 成功体験=“杖ありで歩けた” に限定。
    • 杖なし歩行は常に 失敗リスクが高い未知領域 として残るため、挑戦頻度が下がり学習機会喪失。

まとめ —— “歩けば良い”ではなく“何を強化する歩きを繰り返すか”が決定打

距離だけを追う杖歩行は、杖あり歩容を脳と身体に刻み込むリスクが高い。
杖なし歩行へ向かうには

  1. 支持基底を縮める課題設定
  2. 荷重点と床反力を段階的に回復させる負荷設計
  3. 感覚再統合と心理的成功体験の導入

筆者プロフィール

代表:藤橋亮介

理学療法士 脳とカラダの研究所 代表

藤橋 亮介(ふじはし りょうすけ)

〜経歴〜
2011年 理学療法士 国家資格取得 
札幌市 脳神経外科病院に勤務

2014年 大阪府 認知神経リハビリテーションセンターに勤務

2015年 奈良県 ニューロリハビリテーションセンター
健康科学研究科(大学院)に入学
2017年 修士 取得

2019年 札幌市に戻る
児童発達支援・放課後デイサービス 事業所に勤務

2020年 独立し、「脳とカラダの研究所」 を開業

 

 

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